電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

謙虚であることのカッコよさ

昔から好きな音楽はと訊かれると、ビートルズビーチボーイズは別格でと先に断ってから、その先を話すようにしているが、実は、ビーチボーイズに関しては、さほど詳しくない。何枚かのアルバムを執拗に繰り返し聴いていただけであり、初期の曲なんかはベスト版止まりだったりする。では、ビートルズに詳しいのかと言えば、これは中学生の頃、熱心に情報を仕入れた時期があったりするし、恐らく80年代初頭までに発売された正規版は、すべて聴いているし、いっぱしのマニアのつもりだったのだが、ある事件をキッカケに、マニアを名乗るのを止めることにした。

社会人になったばかりの頃。社会人というか、会社員になったばかりの頃。出向先の一期上の先輩と、ビートルズの話をしていた。仕事中は居眠りばかりしていた人で、自分はその人を多少舐めていた。

「長尾くんは、ポールとジョン、どっちが好き?」という、非常にステロタイプな質問をされた。「どっちかと言ったら、ジョンですねえ」と答えると、さらに好きな曲を訊かれたので、確か「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」と「スタンド・バイ・ミー」と「スターティング・オーバー」と答えたと思う。ステロタイプな質問には、ステロタイプに答えるのが礼儀だと思うからだ。いや今だからこそ、そう思うだけで、その頃はそう答える人間だったのかもしれない。勿論、上記3曲は今だって大好きなんだが、今だったら、そうは答えない。この辺り、ニュアンスが難しい。

それから数日後、その先輩は、2本か3本のカセットテープを自分にくれた。上記3曲のいわゆる未発表テイクが、ぎっしり入っていた。珍しい音源がネットで流通してしまう今とは時代が違う。いわゆる海賊版レコードからのダビングテープだった。今も、そのテープは大切に持っている。

ああ、マニアってのは、上には上がいるんだと思った。それ以来、自分はマニアを名乗らない。いや自嘲表現として「まあ、おれはマニアだから」みたいに、「所詮」的な意味を乗せて言うことはあるが、決して「おれはこの分野なら誰にも負けないぞ」的な肯定的な意味では、どの分野に対しても、マニアを名乗ることはない。

謙虚という言葉の意味を、自分はあの時教わったと思っている。そして、謙虚な方がカッコいいことも。

ビートルズの好きな曲を訊かれたら、今どう答えるだろう。「ノー・リプライ」「オール・アイヴ・ガット・トゥ・ドゥ」「エイト・デイズ・ウィーク」というあたりか。何に対しても謙虚であるつもりは充分あるが、多分自分は、昔よりもっと嫌な奴になっていて、だからちっともカッコよくない。