電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

ストラスバーグから始めよう

映画やドラマの感想・批評はどこにでもあるものの、演技や演出に踏み込んでの批評はあまりない。出来る人がいないというか、基礎知識がないと無理というか、そういう話なんだが、自分ならある程度出来る筈なのでやってみる。

かなり前に、「隠し砦の三悪人」の新旧を比較して、演出とは何ぞやという話を書くと予告したんだが、そのまま放置してしまった。宣伝にもチカラが入って煽られまくったものの、今となっては、誰も評価しない(とまでは言わないが)樋口版の「三悪人」、実は、脚本はよく出来ていたと思うのだ。少なくとも、黒澤版の「三悪人」で、あれれ変なのと思う部分は、全部直っていて。にも関わらず、やっぱり樋口版は凡作で、黒澤版は傑作とするのが、「識者の評価」というモノなのだとは思う。さて、それは何故かという話(までは、いきなりは行かないと思うが)。

昨日の大河ドラマ天地人」、いよいよ関ヶ原だったんだが、これが何とも情けない出来。数週前に突如出てきた島左近若林豪)や大谷刑部(津田寛治)に有名シーンをこなさせ、一通り定番は入れてみましたという感じで、小早川秀秋上地雄輔)は、よほどのダメ役者じゃない限りあの程度にはなるもんだし、家康(松方弘樹)には、あまり印象的な科白を振れてなかった。今年の流れからすれば、何故この役者がここでの連続であり、真田の上田城がワンカットなのは何やってんのかなだわ、中尾彬に毛利を振った以上、毛利が何故参戦しなかったかで見せ場をもうひとつ作らなきゃ意味ないわ、心底ダメ台本だなあという印象は拭えない。

それでも、そこそこ観れてしまうのは、簡単な話で、大河ドラマ関ヶ原であって、それぞれの役者がそれぞれに気合が入って丁寧に役を作ってきているからで、その意味では、もう好き勝手にその場を面白くすればいい的な実にアナーキーな演技をしている松方弘樹が、今回に限りあまり目立なかったのもしょうがないかもしれない。

話はさらに飛びまくり、突如スーパーヒーロータイムの話になる。例年であれば、自分には戦隊モノは恥ずかしくて観ていられなく、特にここ数年は主人公の赤が白痴的なキャラに設定されることが多く、それに拍車をかけていたんだが、今年は、観ていて全然恥ずかしくない。想定している年齢が少し高いこともあるだろうが、ホンがしっかりしているのに加え、役者陣がホンに応えるだけの演技をしている。演出もカタチをつけ過ぎてないように見え、それがいい方向に出ている。

そのシンケンジャーのホンを書いている小林靖子は、電王のホンを書いていた人であり、あのコメディ路線が、2年ぶりに全面に出てきている新作・仮面ライダーダブルの方が、むしろ観ていて恥ずかしい。コメディ部分を支えるべき、山本ひかるが、今のところまるでダメだ。さほど恥ずかしい科白じゃないのに、演技で恥ずかしくさせてしまう。これ、役者の力量も無関係ではないと思うが、やはり演出の問題だと思う。

あれを役者が勝手にやっているというのなら、演出で修正してあげないと。アゴをツンとあげて「なんだからね!」とやってストップモーションにしてキメというシーンが頻出し過ぎで、つまり演出が、演技というよりカタチをつけ過ぎなのだ。結果として山本ひかるは、いつも変顔だ。電王の白鳥百合子を思い出して欲しい。ここじゃない世界に行ったままのブログを書き続けている白鳥百合子が、そんなに演技が上手いのかと言ったら、そんなことはなく、しかし、あれは充分魅力的で、かつ恥ずかしくも何ともなかった。

役者に対する演技指導は、演出という作業の一部分であり、全部ではない。加えてここに誤解がある場合が多いんだが、演技指導というのは、カタチをつけることではない。この辺り、実際の芝居の稽古を見たことない人には説明が難しいところで、演技はつけ過ぎてもダメ、つけなくてもダメで(但し役者が勝手にやって、上手くいってしまう場合も多い)、このあたりのバランスが演出・演技指導の醍醐味でもあり語りどころでもある。

さて、この項、自分にしては、色々なテーマを一度にぶち込み過ぎて、1回では書ききれないんだが、これ以上長くするのもなんなので、一応の結論をつけておく(が、多分続く)。

自分は黒澤信者じゃないので、黒澤はやはり凄かったという話にはならない。「隠し砦の三悪人」の秋月の姫、奇跡の大根・上原美佐は、明らかに演技をつけ過ぎであって、かなり恥ずかしい(が、そこそこ魅力的ではある)。恥ずかしさの質では、仮面ライダーダブル山本ひかるの恥ずかしさに似ている。かといって、ほとんど演技をつけられてない、樋口版で秋月の姫をやった、長澤まさみの演技が、魅力的なのかといったら、全然そうじゃないところがまた難しく、長澤まさみは「天地人」でも「ワタシ精一杯自分で考えてやってます」的演技をしていて、これもかなり恥ずかしい。学芸会的に我流なのに、大物になってしまって、誰の指導も受け付けなくなってしまっているようにみえる。だから、恥ずかしいんだが、恥ずかしさの質が異質だ。舞台系の大物演出家の作品に出させて、基本からやり直させないと、多分厳しいと思う。ストラスバーグから始めよう的に。