電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

エロティック・ホテル

そのホテルは、少し変わった作りで、メイン玄関を入ると、正面に、2階にあがる階段があった。

駅からは離れているもの、国道沿いにあり、遠目から見ると、辺りに高い建物がないこともあり、ひときわそびえ立っていて高級感もある。ところが、近くまで来ると、寂れた雰囲気が漂い始める。中に入ってみると、まったく流行っていないことを確信する。

入って右手のやや奥に、ロビーのカウンター。その手前の正面に、2階へと向う大きな階段があるのだ。欧米の古い豪邸の作りを模しているのだろう、ビビアン・リーがドレスの裾を翻して駆け下りてきそうな階段だった。恐らく2階に結婚式の会場でもあり、そのイベント演出の為に設計されたのだろう。が、そのホテルに足を踏み入れたのは、平日の日中であり、その階段が、実際のところどう使われているか、正確に知ることが出来るわけもなかった。

チェックインを済まし、再び外に出た自分が、ホテルに戻ったのは、もう深夜の3時過ぎていた。時間も時間であり、俯き加減の自分が早足で自動ドアを通ると、正面の階段から人が降りてくる気配を感じた。慌てて視線を上げると、ブルーのドレスをまとった、まさに妙齢の女性としかいいようがない女が、階段を1番上から、コツコツと、一段ずつ降りてくるところだった。

酒が入っていた。視野が狭い。ロビーは既に薄暗い。それ以上、じっくり見ることはしなかった。夜中に一人でいる女を、じろじろ眺めるほど無粋な真似は出来ない。酔った頭でも、その程度の配慮は働くものだ。

カウンターで鍵を受け取って部屋へ向う。丁度、階段の裏手奥にエレベーターホールがある。その為、階段を降りてきた女が、その後どうしているのかは階段に隠れてしまい見えない。何故か、急に気になり、エレベータに乗るとすぐ振り返って、ロビーを眺めてみる。階段の死角から外れたソファーに、女が腰をおろすのが、半身だけ見えた。それが自分の視界に入っても、まだ何事も考えてはいなかった。

エレベーターの扉が閉まった瞬間、はっと気付く。

深夜の3時。人影のないロビー。自分が帰った瞬間、階段を下りてくる女。受付にいた老年といっていい、ホテルマンから女に声がかかることもない。そのすべてが偶然である可能性は、多分かなり小さい。

部屋に入ると、自分の鈍さを、少しだけ後悔した。青いドレスだけが、脳裏に残っていた。