君が泣く
毎月、携帯電話が止まってから、支払いをしてないことを思い出して、慌てて払いに行く。見事なくらいに、毎月これをやっている。先月末も止まっているのに気付いて、慌てて、近所のコンピニに支払いに行った。最近は便利なもので、5分もしないうちに、通じるようになる。
ところが、先月に限って、支払ったのに、中々通じるようにならない。どうしたことだ。おれ、何か他にも悪いことをしたか。よく考えてみたら、停止の対象月ではなく、翌月の支払をしていたのだった。苦笑いしながら、その前の月の支払用紙を探して、もう一度支払いに行って、事なきをえた。
お陰で、来月(もう今月なんだが)は、支払いに行かなくてもいいじゃないか。そうか、おれの携帯は、来月は、何もしなくても止まらないのだ。偉いぞ、おれの携帯。凄いぞ、おれ。そう思うと、普段は、愛着なぞ、別に感じたこともない、自分の携帯が、何やら愛しいものにすら見えてきて、思わず頬ずりなどしてみる。いい子だ、いい子だよ、お前。これからも、ずっと止まるんじゃないぞ。
「あら、珍しいわね。貴方がそんなに優しくしてくれるなんて」
「すまないね。君が鳴る時は、往々にして悪い知らせばかりある時でさ。決して、君のせいではないが、君のことを煙たくなってしまう気持ちもわかってくれ」
「男って、誰でも我侭なものね」
「そんなことないさ、おれは我侭と言われたことは、生まれてこの方、3回しかない。1度目は…」
と、突然、けたたましい音を立てて、彼女が泣き始める。ギョッとして、ビックリして、すぐに怒りがふつふつと湧き上がり、彼女を、投げつけて踏んづけて、バラパラしてしまいたい衝動に駆られる。が、何とか思い留まり、彼女を手に取り、通話ボタンを押す。
「すいません、もう少しで出来ます、あと3時間、いや明日の朝まで待ってください」。
こちらから一方的にしゃべり謝り続けると、やっと、彼女が静かになった。さて、彼女をこれ以上泣かせない為にも、気分転換が必要だ。彼女を置いて、強い酒でも引っかけにいこう。