電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

金権プロモーターになりたい

ターザン山本『「金権編集長」ザンゲ録』(宝島社)を読んだ。

ツイッターでは周辺では比較的話題になっているが、キチンとした書評ではなく、多くは「何が書かれているか」が話題にされている、いわゆる暴露本系の本。

しかし、この本、出来がいいと思う。非常に読後感がいいのだ。これは一重に暴露の方法による。すべての事象を「自分が悪い」という色調で統一していて、まえがきにある通り、この本が口述筆記の形態で書かれていること、つまり、編集の手が大きく入っていることが大きいとは思う。

プロレスの世界は、ほとんど知らない。プロレスの大会の運営をお手伝いしたことが数回あるくらいで、いわゆるケーフェイな打ち合わせをしているところを間違って覗いてしまったりしたら、バツが悪いので、とにかく控え目に、大人しくしていた記憶しかないくらいで、つまり、近接ジャンルである格闘技のインサイダーになって、もう7年も経つものの、実はプロレスの世界に対する見識は、ファン時代から、まったく深まってないばかりか、映像でもプロレスを見ることが、ほとんどなくなってしまった為に、マニアなファンより詳しいことがあるわけではない。

が、この本が扱う、プロモーションとマスメディアの関係は、かなり近い構造が格闘技の世界でも成立していることも、また確かで。ターザン山本さん自身がそうであるように、プロレスと格闘技は扱うメディアも人も、被っていることが多いからだ。

その意味では、勝手知ったる世界であるとも言える。この本ではまったく触れられてないものの、事実、山本さん、2003年くらいに女子総合に入れ込んでいた時期があり(山本さんの編集で本まで出た「ジョシカク」という表現は山本さんの命名だ)、当時のスマックガールにおいて、自分は、営業接待する立場などではなく、新人の演出担当に過ぎなかったんだが、山本さんに少しでも気持ちよく煽ってもらえるように、会場で流す映像に、山本さんの画像を、独断で使ったりした(ら、よくわかっていると日記だがSRSだかで褒められた)。当時のスマックの代表であった篠さんが、どの位、個人的に山本さんを接待したのかは知らない。多分、あまりしていないとは思うが。少なくとも数十万の実弾を渡せるほどの余裕がなかったことは確かだ。

この本が対象としている90年代までのプロレスの世界から、格闘技の世界、つまり自分が今関わっている世界に目を向けてみようか。加えて、権力を批判するのがジャーナリズムの本質、という意味での、ジャーナリズムを、狭義の【ジャーナリズム】としてみる。

何回も「専門メディアの世界にジャーナリズムなんてない」的なことを、自分は書いている。勿論、この場合のジャーナリズムは【ジャーナリズム】である。

この本でも、ほんの少しだけ触れられている「官房機密費」の問題。盛り上がりそうで盛り上がらない。そりゃそうだ、メディアの側、もらっている人ばっかりだもの(というのは自分の推測だが)。日本で一番大きい、政治ジャーナリズムにおいてすらそうなのだ。が、政治の世界であれば、政治専門ジャーナリズム以外にも、政治を報道するメディアは存在するわけだ。だから、かろうじて【ジャーナリズム】が成立する。

が、もっと狭いジャンル、例えば格闘技の世界に【ジャーナリズム】など存在しようがないのは、当たり前の話で、それはもう良い悪いの話ではない。「癒着」とか「共犯」なんて言葉を使うと、それがいかにもインモラルで悪いことであるようなニュアンスになってしまうが、「共同作業」「役割分担」でしかない。

理想論をいえば、【ジャーナリズム】は、聖職であるべきだろう。かと言って、この時代、聖職に拘って霞を食って生きていけるわけではないのだ。つまり、例えば自分が安いギャラでがんばってくれているスタッフに個人的に飯をおもって、まあもう少し頼むよ宥めるのと、メディアな人に飯をおもって、よろしくお願いしますよと頼むのと、カネの使い方として、それは勿論モラルの問題まで含め、本質的な違いがあるとは、自分には思えないのだ。

あの当時の週プロの表紙が30万で買えるなら、それは広告宣伝のコストパフォーマンスとして、安いと判断してもいいと思う。最も、今自分が、ゴン格やkamiproの表紙を30万で買うかと言ったら、買わないわけだが。あの頃の週プロならばという前提付きの話であり、時代の変遷と共に、メディアの価値も変わっていくという話だ。

あとがきで「本当にすまないと思っている」という1行が、あたかも円谷幸吉の遺書のように、繰り返される。すべては自分が悪い、そういう論調を徹底することによって、良い悪いの問題ではない話(と自分が判断しているメディアの問題)が、改めて、読者の判断に委ねられるという構造になっている。そこが読後感のよさに繋がっている。繰り返すが、いい本だと思う。少なくとも、ライターや編集者志望(の人間なんて、今いるのか一抹の不安を感じるが)だったら必読だ。勿論、今は、メディアの人間にとって、こんなに美味しい時代ではないということは、言っておかなくてはならない。