電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

総合格闘技の明るい未来

最終回。全部読みたい方は右上の「ジャッジを考えると競技がみえる」をクリックするとこの連載のみ表示されます。

もう、随分と前から、格闘技について、特に総合格闘技について、書くのが辛いのだ。それはこの連載の前から、このブログを読んで頂いてきた方なら、ご存じだと思う。繰り返し繰り返し書いてきた。だってね、こんな事書けば書くほど、全部自分に返ってくるんだよ。今風に言えば、ブーメラン(但しブーメランは的に当ったら、返ってこないぜ)、要は天に唾してるだけ。もう書けば書くほど、自分の力不足に胸が張り裂けそうになる。

それでも、何故今回こんなにも長々と書いてきたのか。

初回に書いたように、自分が昔やったジャッジの分析のような、ある意味アカデミック(といえるかどうかは別として)なアプローチがまるで見当たらないので、再掲しておきたいというのが、最大の動機であったし、それは今後何かあった時に、自身も含め「ここ読め」と言える利便性を持つことになる。勿論、そこには、自分はここまで考えていたんだぞという自己主張もゼロではない。

が、それ以上に、実は、この連載、総合格闘技のインサイダーとしての遺言のつもりなんである。

年齢的な問題、そこからくる体力的な問題。生活の糧にならないどころか持ち出し続けねばならない経済的な問題。当然それらの前提となるのは、自分の能力不足。すべてのベクトルで、運営者として自分には限界がきている。もう、そんなに長くは出来ない。ならば、せめて自分がやってきた仕事を、キチンと仕上げておきたい。まずは、その理論編から開始してみたということだ。自分が現場仕事で得た経験と、それ以前から考え続けてきたことのフィードバックの結果であり、故に自分の理論的背景の集大成でもある。

これは極私的な思いだが、自分は自分の感情を揺らしたくて、何かを観る。それは競技スポーツに限らずだ。いわゆるすべての「作品」を。

安易な正のベクトルを持った言葉、よく言われる例を使えば、夢をもらったり力をもらったり勇気をもらったりしたいわけではないのだ。大体、何かを観て得られた夢や力や勇気など、大したものではない。夢は自分で思い描くものだし、力は自分で身に付けるものだし、勇気は自分で絞り出すものだ。

が、多くの競技者や運営者が、夢を与えたい勇気を与えたいなどと言う。そんなものは、すべてが偽善か自己弁護であるので、観戦者である貴方は、一切気にしないでよろしい。思い切り無視し給え。自分は多くの場合、自分の絶望を確認したくて作品を観る。あるいは、自分の流した涙を拭くハンカチが欲しくて作品を観る。ごく稀に、わずかな希望を繋ぎ合わせたくて作品を観る。

競技とは競技者のものだ。競技は、競技に参加し勝利するという愉悦を本質としている。だからこそ、競技者自身が、夢を思い描き、力をつけ、勇気を振り絞り、頂点を目指して戦うのが競技である。

けれど、その過程の激しさ、結果の厳しさ、高められた技術の美しさ、そして切なさや戸惑い、やがて、競技者のリアルな感情が、少しだけ観戦者に雫のように降り注いで、そうしてようやく、競技は観戦者の心を打つ。競技者と観戦者の心に、幻想の幸福が共有される一瞬。その時、初めて競技はスペクテータースポーツとしての価値を持つ。

だからこそ、競技は、どこまで行っても競技者のものだ。

ならば、答えは簡単だろう。さらに努力すべきは、競技者自らなのだ。己の肉体を極限まで鍛え上げ、その強さで、観戦者の心を打ってみよ。そして思い知れ。今の君には、そんな力はないということを。己の技量と力だけで、観戦者の心を打てないのみならず、勝利すら掴めない分際で、何を言えるというのだ。

意識をさらに高く持て。競技者の意識が、ひとつ上の次元に到達しない限りは、何も変わらない。プロとして成立している他競技のアスリート達の意識は、総合格闘技の競技者のそれより明らかに高い。ひとつだけ間違いないことがあるとするならば、選手を含めた関係者は、今を変えることを恐れてはいけないこと。むしろ、変えていく必要があるということ。

十年ほど前、「総合格闘技の未来は暗い」というフレーズで開始した連載をネットに発表していて、勿論、それは何の現場の経験もない、単なる観戦者でしかなかった十年前で、今読めば稚拙なモノなのだけど、その連載を、当時自分は完結することが出来なかった。現場に入ってプロモーターまでやるはめになったスマックガール時代のブログでも、やはりダメだった。ようやく、今それを完結することが出来る。

総合格闘技は、競技として極端に若い。未来が明るいかは誰にもわからないけれど、結局あれから十年経っても、まだ、何も始まってもいないことだけは確かだ。

そして、それを始めるのは、作っていくのは、君なんだよ。