電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

タランティーノでどれが一番好き?

スティーヴン・スピルバーグみたいな大物監督だったら「スピルバーグでどれが一番好き?」みたいな事は、あまり言わないような気がする。メジャー度は申し分なくとも、活動が長くなって多作になると、イチイチ気にしていられないみたいなところがあるし、何よりマニアックにスピルバーグが好きな人なんて、今時あまりいないからだ。「激突」はよかったねとか言ってればいいだろみたいな。

国内だったら「どれが一番好き?」を訊きたくなるのは、やはり宮崎駿北野武が双璧だろう。相手のセンスを問うというか、好みがハッキリ出るというか。ちなみに、自分は、宮崎駿なら「紅の豚」、キタノなら「あの夏、いちばん静かな海。」か「ソナチネ」で迷う。海外でこれを訊きたくなるのは、何と言っても、クエンティン・タランティーノか。大物になってもマニアックさには定評があり、好き嫌いが激しい監督で、何より寡作だし。

と、前フリが長くなったが、タランティーノの最新作(と言ってももう1年以上前の)「イングロリアス・バスターズ」をようやく最近になって観たんだが、評判通り面白かった。タランティーノの最高傑作なんて感想も散見したが、そこまではどうだろうなという気もするけど。映画全体での統一感が薄いところがあって。「大脱走」でマックイーンがバイクで走りまくりそうな草原を舞台にマカロニウエスタン風の音楽で緊張感を高める冒頭と、デビッド・ボウイをバックにヒロインのメラニー・ロラン(この女優がびっくりするほどきれいなんだわ)をたっぷり魅せる劇場シーンは、まるで別の映画のようだ。そこがいいという人もいるのかもだが、自分はきっちり統一感があって完成度が高い方が好きだ。

タランティーノでどれが一番好き?」と訊かれたら、映画通を自認する人なら、あえて「パルプ・フィクション」を外して「レザボア・ドッグス」と答える率が高そうな気がするし、「キル・ビル Vol.1」を挙げる人も多いだろうが、これはマニアというよりオタク度が高そうだ。自分は、どちらかと言えば前者、つまり「パルプ・フィクション」か「レザボア・ドッグス」好みというか、つまり映画としての完成度重視だけれど、ここまで挙げた4本のどれでもなく、「ジャッキー・ブラウン」が一番好きなんである。

中年の悲哀というか、とにかく切なさで統一されたストーリーと演出。ワキのジェーン・フォンダの娘や、ロバート・デ・ニーロのダメ人間ぶりまでが切ない。マイナーなソウルで統一された選曲のセンスに至っては、もう涙ちょちょ切れもんで(なんて言い方今時しないよ)。タランティーノ周辺作品にありがちなグロテスクな模写はない。つまり、唯一の静かな映画なんである。宮崎駿作品の中で唯一「紅の豚」が大人の映画であるように、世界のキタノ作品の中で「あの夏、いちばん静かな海。」が数少ない静かな作品(こちらは唯一ではないけど)であるように。

脚本作品まで範囲を広げると、さらに好きな「トゥルー・ロマンス」まで含めて、お勧めとして挙げておく。「レザボア・ドッグス」がマニアック、「キル・ビル」がオタッキーなら、「ジャッキー・ブラウン」が好きな自分は、アマノジャッキーという感じか。そんな言葉ないけどね。