電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

恐怖! コーラフロートの怪

突如、コーラフロートが飲みたくなった。

アイスクリームやアイスキャンディが食べたくなる事は暑い季節ならよくあるし、焼肉だとかカレーだとかラーメンだとか食べたくなるなら、勿論よくあるし、どちらかといえば辛党ではあるが、甘いものが食べたくなる事だってなくはない。ただそういう時は、肉体的に疲れていたりして、ああ身体が甘いものを欲しているんだなと思えるような状態である事が多く、甘いものなら何だってよく、ケーキのような洋菓子の甘さとか、餡子のような和菓子的な甘さ(はあまり得意でないのでほぼないんだが)とか、それこそ何かアイスクリームのような冷たいものだったり、甘い飲み物だったり、そういう抽象的な欲し方であるのに比較して、頭の中がそれ一色になってしまうような具体的な欲望の育ち方は記憶にない。つまり、それなりに長くなった人生において、コーラフロートという飲み物を物質的にそこまで切実に欲したのは、多分初めての経験であったのだ。

コーラとアイスクリームを買ってきて、相応のコップにコーラを七分目ほどそそぎ(アイスクリームを投入すれば、激しく泡立つことが理解できたから余裕をもってその程度にした)、そうして、アイスクリームを大き目のスプーンですくってその上に浮かしてみた。

それなりに泡立ったものの、それは予想の範疇におさまり、これはいい感じだ、さてアイスクリームをスプーンですくって食べようと思ったんだが、その時、その恐怖の体験が始まったのである。

スプーンを脇から差込んでいけば、コーラ味のアイスクリームが適度にすくえて、美味しく頂ける筈だという過去の経験則に照らして完璧なまでの自分の予想は、あえなく裏切れられた。

上手くすくえない。すくえないばかりでなく、スプーンでアイスクリームをコップの底に突き落としている感じになってしまい、一旦落ち着いた筈の泡立ちが再び激しくなり始め、それはコップに直接口をつけ下品にすすらなければならないほどの状態になり、しかも、再びスプーンでアイスクリームをすくおうとすると、泡立ちは益々激しくなり、アイスクリームはコップの底部を目指して沈んでいくばかりで一向にその姿を現すことはなく、やがては、コップにずっと口をつけたまま、すすり続けなくてはならないほどの状態となり、コーラフロートであった筈のそれは、ただ茶色い泡を吹き出す、アイスクリームもコーラもどこにあるのか分からない、何やら奇怪な液体と化してしまったのである。

コーラフロートとはコーラにアイスクリームを浮かすものではなく、コーラに大量の氷を浮かべ、その浮力を利用してアイスクリームを乗せ、そうして、その氷の浮力がアイスクリームの食べやすさにも利用される飲み物であるという事実に気付くのに時間はかからなかったのだが、気付いたからと言って今更対処の仕方があるわけでもなく、まるで全電源停止で冷却不可能状態の格納容器の中で一気に溶融していく核燃料のように、アイスクリームは溶け続け、泡は吹き出し続け、自分は、ただだらしなくコップに口をつけ、ずるずるとすすり続けるのみであった。