電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

黒澤明全30作・極私的見所解説その4

三週目「黒澤明全30作・極私的見所解説その3」はこちら

今週四週目のテーマは「珠玉の時代劇」。一週目の「不朽の傑作選」に「七人の侍」「用心棒」「椿三十郎」の3本を持っていかれているので、やや残りカス感があるのはしょうがないところ。勿論、3本取られても、これだけ残っているとも言えるんだが。

「隠し砦の三悪人」

スターウォーズのデコボココンビはこの映画から。傑作時代劇とされることが多いが、おれは大した映画だと思わない。「姿三四郎」で書いた藤田進の殺陣の酷さに加え、よく語られる三船の馬上シーンも何だか滑稽だ。さらにはヒロインの秋月の姫・上原美佐の奇跡の大根ぶり。どの位大根かというとリメイクの長澤まさみより酷い。とはいえ新人の大根だから、一挙手一投足、全部黒澤に振り付けられてる様が伺え、恐らく生来のものなんだろう品の良さも加えると何となく見せられてしまうことも確か。それでもここまで欠点を並べられる事自体が、この映画は実は大したことないという証左なのではないか。勿論素晴らしいシーンも山ほどあって、全編失礼なリメイクよりは圧倒的に面白いことだけは確か。

「虎の尾を踏む男達」

最近の若い子は知らないらしいが、この映画の元になってる「勧進帳」は「忠臣蔵」なみに有名な話。つまり、どうなるのかと先を楽しむ話ではなく、話は既に知っている前提で、それをどうやるのかと見るべき話。従って「勧進帳」を知らないよい子はまずはググって荒筋を理解しましょう。で、それを黒澤がどうやるかが見所という。まだ若手だった黒澤(4作目)、ありがちなアイディア一発勝負。「勧進帳 with エノケン」とギャグを持ってきたわけだ。為念で書いておくが、エノケンは今で言えば、たけしとかタモリとかさんまとか、そのレベルのトップコメディアン。映画も山ほどやっている。一方主役の弁慶は「姿三四郎」に続いて出演の時代劇の大物・大河内傅次郎。そういう配置なわけだ。で結果として出来はどうか。エノケンが浮いてるようにしか見えない。が、この部分こそ同時代で見ないとイマイチ理解出来ない筈で。おれもよく分からない。エノケンが弁慶でも義経でも関所の役人でもない意味だとか。その意味では既に古びているとも言える。

「蜘蛛巣城」

シェークスピアの「マクベス」を戦国モノに翻案した一本。実は黒澤、洋モノ原作には負けっ放しなんではないかというのが、おれの説。これもそれほど凄いとは思わない。有名な「森が動いた」シーンを円谷の特撮でやっているが、如何せん今の目で見てしまうと超ショボい。今のCG技術があれば精緻にリアルな森を描いて動かしただろうからこそ、古びていると感じてしまう。勿論、三船にホントに矢を射掛けて「殺す気か!」とダチョウ倶楽部みたいなリアクションさせたシーン始め、見所は豊富。とはいえシェークスピアのテーマ性に縛られ過ぎて、活劇性を失い文芸調の冗長なシーンばかり増してしまっている印象。

「乱」

これもシェークスピアの「リア王」。「蜘蛛巣城」から30年弱、同じ戦国モノへの翻案で、その失敗を繰り返すだけでなく、さらに酷くしているように見える。表情が判別できないほどの遠間からのカットばかりで、役者は完全に置物化してしまい、稚拙なピーターに物語の重要な部分を任せることで妙に浮つき、美しいが冗長なシーンばかり積み重ねて、単に退屈な文芸大作になってしまった。そもそも、砂漠に城が建ってることからして超不自然。カネの使い方を間違っているとしか思えない。勿論、今ならあの城など街ごと全部CGで描いただろう。そして、その方が出来がよくなっただろう。何というか黒澤の感性が、完全に浮世離れしてしまって、一般性を失っている黒澤の最駄作だと思う。

五週目「黒澤明全30作・極私的見所解説その5」はこちら