電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

古式ゆかしき時代劇

いつの頃言われたのか知らないが、「時代劇六大スター」というのがあって、阪東妻三郎嵐寛寿郎片岡千恵蔵市川右太衛門長谷川一夫大河内伝次郎だそうだ。

知らないよね。おれもほとんど知らないもの。いや勿論名前は知っている。バンツマとかアラカンとか。あと、千恵蔵と伝次郎の末期は、そこそこ見てる。勿論、最近古い邦画を熱心に観ているからだが。

相変わらず「天地人」は酷いなあと思っていたら、NHKのBS2で「あばれ大名」という1958年の時代劇をやっていたので観てみた。主人公が、前田慶次郎で、演ずるは市川右太衛門。タヌキ親父の徳川家康大河内伝次郎。うむ、6大スターのうち、2人が競演だ。

しかし、この映画、時代考証というか歴史考証がメチャクチャ。舞台は、関ヶ原の前後だと思われるのだが、ここからしてよくわからない。太閤秀吉は死んでいるようだが、三成も淀も出てこず、福島正則は既に改易になっていることが語られ、なのに、前田利家はまだ生きていて、慶次郎は加賀百万石のうち1万の捨扶持を与えられて腐っている最小大名という設定(1万石以上を大名という)。これに比べたら「天地人」はドキュメンタリーに近い。…というのはさすがに無理だが。

基本的には、右太衛門の役者性だけで引っ張る古式ゆかしき時代劇で、さすがに今の目で見てしまうと、右太衛門のよさがよくわからない。既に歳を取り過ぎているし太り過ぎているというのもあって、ナニこのおっさんという感じだ。見得を切ったり、当たってないように見える軽い殺陣で、バッタバッタと人が倒れたり。ここで拍手をしなくちゃいけないというのはわかる。わかるんだが、無理だ。

今の目で観ると、明らかに、家康役の大河内伝次郎の方が魅力的だ。上記の6大スターの中では、大河内伝次郎は、自分の人気の衰えに意識的だったらしく、1950年代には、結構ワキで配役されていて、つまり主役じゃない立場で色々な映画に出ていて、美味しい演技をすることに慣れているという感じで。つまり「シェイはタンゲ、ナはシャゼン」という伝次郎の名科白を、物真似でしか知らない自分には、渋い脇役の大物。そんな感じだ。

正直、この映画が1958年の映画だといわれると、うーむ邦画は何をやっていたんだという気がしないでもない。黒澤の「七人の侍」が1954年であることを考えれば。いやいやこの時代、まだ水戸黄門を映画でやっていたのだと解釈すれば、そんなもんだろということなんだけど。が、さすがに、お勧めですよと書く気にならない。監督の内出好吉という人も知らない。

が、スタッフロールを観ていたら、工藤栄一が助監督をやっている。この人はこの5年後の1963年に「十三人の刺客」という超傑作時代劇を撮る。実録モノ、集団戦モノの元祖(つまり東映ヤクザ映画の元祖)みたいに褒め方をされることが多い映画だが、実は、この映画、映像美が凄い。「第三の男」みたいだよと言ったら褒め過ぎか。同じ実録・集団戦の時代劇「大殺陣」というのを翌年に撮っていて、こちらも傑作とされることが多いようだが、自分はピンと来なかった。同じようなことをやっているんだが、前者の方が圧倒的に出来がいいと思う。なので、これだけ勧めておく。そうそう、こちらは6大スターのうち、片岡千恵蔵が主役で嵐寛寿郎が脇に回っている。こちらは、役者性がどうのとか言い出さなくとも、まったく古びてないどころか、未だに光輝いている。