電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

桜桃とタンポポとグレップ

ずっと引っ掛かりつつも、調べる暇がなかったので書けなかったネタ。

今年は太宰治の生誕100年で、太宰関連のイベントとか映画とかが色々ある。先日、根岸吉太郎の「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」がモントリオール映画祭で、最優秀監督賞を取って、ようやくこの映画の存在を知ったのだけど、妻役には、松たか子で、自分は演技の上手い女優は基本的にそれだけで好きなんだが、この人は特に好き。ヘビースモーカーという噂があって、ホントならもっと好き。煙草止めたら嫌いになっちゃうぞ。

で、問題は「タンポポ」。上記映画「ヴィヨンの妻」を底本にして、色々太宰の世界観をぶち込んであるらしいんだが、「タンポポ」がよくわからない。そんな作品名はないし、どこからなのか。「タンポポ」が片仮名であることも、引っ掛かっていた。カッコつけ文体である太宰なら片仮名で使ってそうな気もするが、何かセイヨウタンポポっぽくてさ。「たんぽぽ」か「蒲公英」の方が、「たんぽぽ」のイメージとしては、しっくりくる。

映画のオフィシャルサイトをチェックしてみると、「ヴィヨンの妻」以外では、「思ひ出」「灯篭」「姥捨」「きりぎりす」「桜桃」「二十世紀旗手」あたりが出てくるそうで。自分のハードディスクを調べてみると、青空文庫からダウンロードしているのは、ほとんど中期から末期にかけてで、初期の作品はあまりなかったので、「思ひ出」「二十世紀旗手」あたりを落として、名前の挙がった作品は全部揃えて、さて「タンポポ」をグレップしてみる。

複数ファイルに渡って文字列を検索することを、プログラミング用語で「グレップ」と言うんだが(語源はUNIXのコマンドgrep)、まあ、今だったら普通に「検索」と同義だね。いやあ、それにしても、太宰の作品をグレップするなんて、違和感バリバリ。陵辱している気さえする。

が、ありました、ありました「タンポポ」。「二十世紀旗手」で、確かに片仮名で使っていた。

私の欲していたもの、全世界ではなかった。百年の名声でもなかった。タンポポの花一輪の信頼が欲しくて、チサの葉いちまいのなぐさめが欲しくて、一生を棒に振った。

「二十世紀旗手」

ああ、太宰だ。何でこういう大袈裟なことをさらっと書いてしまうかなあ的の、太宰な文章。ここだけでも、ぐっと来てしまう。

映画の方、監督の根岸吉太郎は、何故か一本も見てない。ちょっと前の「サイドカーと犬」で久々に名前を聞いたようなイメージがあって、ああ、まとめて見なくちゃなあという感じがしていたので、この映画は勿論観るつもり。当然ラストは「生きていさえいればいいのよ」で締めてくれるだろうな、松たか子