電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

西荻の「戎」と吉祥寺の「カッパ」

西荻窪に「戎」という焼き鳥(というか焼きトン)の有名店があって、南口のごちゃごちゃした飲み屋街の一角に、隣接のテナントが空くたびに、借り増していった風な店の作りになっていて、つまり、一見別の店かと思う店が、4つか5つ、この店になっている。老舗にありがちな店の汚さで、いかにも「昔の造りのままやってます」という店構えが、あざとく感じられ、西荻窪に引っ越して何年も入ったことがなかった。ところが、最近ふとした拍子に入ってみると、それほど悪くない。いやむしろ値段の割りには相当美味いという、ありがたい店だった。いつも満員であるけれど、1人なら、まず待つことはない。いや食わず嫌いはよくないと実感した次第。

この食わず嫌い、西荻の前に住んでいた吉祥寺にある超有名店「いせ屋」が、汚さをウリにしているみたいなところがあって、かつ、美味くなかった(あくまで、おれの舌にはだ。美味いと感じる人もいるんだろう、大繁盛していたからね)という経験による。「いせ屋」に比較すれば、メニューははるかに貧弱だが、圧倒的に美味い「カッパ」という名店が、すぐ近所にあって、こちらは学生時代から頻繁に行っていた店なんだが、20年以上前に改築したというのもある。あれほど客が入っているなら、改築することくらい出来る筈なのだ。

そんなこんなで「戎」には、最近ちょくちょく行くようになった。正直「カッパ」よりは落ちるかなとは思う。が、それほど悪くない。メニューは圧倒的に「戎」の方が豊富。「カッパ」は、焼きトンとお新香しかないからね。何と言っても「戎」は徒歩3分で行ける。「カッパ」は電車に乗って一駅、のんびり歩くと30分近くかかる。その差は大きい。「タンハツカシラ、塩でニーニー」などと、この手の店らしい頼み方をして、大体の場合、昔ながらの甘くないチューハイを飲む。

早い時間に行くと、周りは爺さんばかり。若者は自分だけだ。浮いているなと思う。いやいや、と考え直す。もう、自分もその「爺さん」の一人なのだ。とっくに若者ではない。若い頃に「カッパ」に通っていた頃は、珍しさで店に可愛いがられたことがあって、その頃の記憶がフラッシュバックして、酔うと今の自分を錯覚してしまうほどの爺さんなのだ。

こういう店には、ときたま、そこそこおしゃれで感性尖がって我侭そうな若い娘が2人組で来る。何故か、いつも2人組だ。喜んで相手にしたがる爺さんも多いが、自分は一瞥をくれただけで自分の酒に戻る。若い姉ちゃんと飲みたいなら、そういう場所に行けばいい。若い娘にしたって、別にナンパされに来ているわけではあるまい。そうして、締めに、蕪の漬物でもつまんで店を出る。