電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

再びオープンフィンガーグローブの危険性について考える

連日で格闘技専門誌ネタ。昨日の続きで、さらに気になったところとは、ゴン格の松原教授の連載のこの科白。

いま本当に危険を問うのなら、総合で小さなグローブであそこまで殴り合っていいのかどうか、じゃないでしょうか。総合は眼窩底骨折が多いですよね。初期には1回寝技になったらずっと寝技が続いたので、組技が多いという前提であのグローブだと思うんですけど、いまは立つ技術が進んできて、以前に比べて総合はスタンドでの打撃勝負が中心になってきました。あの薄いグローブでずっと打ち合っていたら、それは眼窩底を骨折しますよ。桜庭にしても、顔を殴られてお茶の間的には目を背けたかもしれないですが、脳が危険というより、眼の方が危ない。

これは谷川さんの発言とは逆で、ええーっ、そうかあ? という疑問。スイミングアイの佐野さんもここに疑問を持ったのを書いていて、あっちこっちに転載されていたが、自分とは違う観点だった。

【後記】佐野さんから、『疑問ではなく「そうですよねー」という同意』であるという指摘を頂きました。詳しくはコメント欄を参照ください。[2009.11.27]

これは、未だ谷川さんがグローブは小さい方がKOが出やすいと勘違いしているほど酷くないものの、やはり、根本的に勘違いのような気がするんだが。自身やる側の松原教授ですら、こうなのか。

前提としては、打撃系の大きなグローブより小さい総合用のオープンフィンガーグローブの方が眼窩底骨折は出やすいとは思う。加えて、眼窩底骨折は、失明の危険まである危険な骨折だ。

が、最悪片目が見えなくなることと(そこまでに至ってしまう確率を含め)、脳に後遺症が残ることを比較で考えて、どっちがマシなのかという話で。例えば、空道はあのフェイスガードに拳サポだが、倒す為に、フック系で脳を揺らすようなパンチの打ち方に特化して、それでダウンが出るまでやるわけだ。自分は選手のその後の生活ということを考えたら、そっちの方がはるかに「危険」だと思うんだが(勿論、ストップの早さ・遅さが重要であり、ここではそこは問題にしないが)。

自分が総合格闘技興行のインサイダーを長年やって、考え方が変わったことがひとつだけある。それは関節技の見込み1本に関してだ。昔は、何でもかんでも早く止めるべきだと思っていた。が、これはもういいのではないかと考えに傾きつつあって。勿論、アマチュアやプロでも新人レベルは別(とは言え柔道は止めないんだよなあ)。

プロの上の方は、もう止めなくてもいいのでないかと。結果、腕とか足とか、折れてしまうようなことになっても、それはタップしない選手・タオルを投げないセコンドが悪いということで。こう書くと何やら突き放した印象になってしまうんだが、グラップリングやBJJを含めたアマ大会でも「一度怪我して、その後日常生活で不便して、タップすることを覚えるんだ」という言い方をする人は少なからずいる。この言い方、選手にあまりに残酷で、自分のクチからは言いたいとは思わないし、仮に自分がその大会の主催者であるなら、そういう言い方はしたくないんだが、一利あることは確かで。

が、プロとなると、タップすることまで含めてプロなんだという。実際に、レフリーからの「見込みを取るとあえてルールミーティングで言うと、選手は止められるのを待っていて、タップしない」という話を何回も聞いた。つまり「止めないから、タップしないと折れるよ」と言った方が、結果、タップは早くなるというのだ。数字的な統計を取っているわけじゃないが、複数のレフリーから、この話聞いているので、少なくとも裁く側の感覚としては、もう確定的なことのようだ。

で、何と言っても、関節技では人は死なない。仮に折れ(るなり何なりし)てしまうことで、一生、びっこを引くようようになったり、腕が伸びなくなったりしたとしても、死にはしない。マトモな日常生活は維持できる可能性が高い。これは片目になることも同じ(なだけでなく、眼窩底骨折の結果、失明という例は幸いにして総合において自分は聞いたことない)。が、脳の後遺症は違う。レロレロ、ラリパッパになってしまったら、もうマトモな社会生活は送れない。特に後遺症というのは、データの蓄積がなく(大体原因と結果が一直線に結びつけられない)、何が起こるのかよくわからないことだらけなのだ。だから、恐い。ならば、それを避けることを第一優先にすべきなんじゃないかと。

というわけで、この話題も昔のブログに書いた用具、特にグローブに対する考察の連載(こちらは結論でず、単に問題提議だけしか出来ていなのだが)を、掘り起こして、改稿(するか注釈をつけるか)して、再掲することにする。ここでは、自分の結論は仮説でしかないのだが、外傷が出る方が(眼窩底骨折が外傷といえるかは微妙だが)長期的な視野で考えれば、選手にとって「安全」なのではないか。少なくとも、オープンフィンガーグローブが打撃系のグローブより、小さいから「危険」というのは、どうなのか、違うのではないか。