私は言葉を休ませない
何となくいい詩でも転載したい気分になり、本棚の奥から、学生の頃に女の子にもらった詩集を引っ張り出してみた。三十年近く前に読んだ詩なのに、三十年前の言葉ではなく今の言葉として、三十年前とは違う突き刺さり方をしてくるから、文学の言葉って凄い。
私は言葉を休ませない
時折言葉は自ら恥じ
私の中で死のうとする
その時私は愛している
何も喋らないものたちの間で
人だけが饒舌だ
しかも陽も樹も雲も
自らの美貌に気づきもしない
速い飛行機が人の情熱の形で飛んでゆく
青空は背景のような顔をして
その実何も無い
私は小さく呼んでみる
世界は答えない
私の言葉は小鳥の声と変わらない
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谷川俊太郎「六十二のソネット」より
角川文庫「谷川俊太郎詩集1 空の青さをみつめていると」所収