電脳如是我聞の逆襲

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10ポイントマストシステムとは何か?

連載続き。前回までの流れは、このすぐ右上のカテゴリー「ジャッジを考えると競技がみえる」をクリックすれば見れます。

さて、いよいよ競技とは何か? となるかと思いしや、ここで1回割り込み。「10ポイントマストシステム」について。自分もよくわかってなかったことが多く、この連載を書いた時に色々調べて、ボクシンファンらしき方からのコメントなども受けて、ようやく、なるほどそういう事かと納得した話。未だに、わかってない人多いと思うので、皆様ここでしっかりお勉強して、間違って使っている人がいたら、得意気に薀蓄たれましょう。

「ジャッジを考える3」 2006.08.12


さて、競技とは、いったい何なんでしょうか。


今回はこれを考えていこうと思ったのですが、ひとつ割り込みです。


「『ラウンドマストシステム』というのは和製英語であり、ボクシングの採点方法自体は『10ポイントマストシステム』という」という指摘をしてくださる方がいまして。


きちんと物事を考えるということは、言葉の意味を正しく定義していくことです。例えば今回の連載に限らず、自分は、「興行性」とか「競技性」と、安易に「〜性」という表現を使って何事かを説明することが多かったのですが、ホントはそれじゃイケナイ。そうやって術語的に言葉を振り回すなら、まずはそれを定義することから始めるべきなんですね。


今回のこの文章の最大の目的は、そういうことを、1回ちゃんとやっておきましょうかということです。


てなわけで、「ラウンドマストシステム」と「10ポイントマストシステム」について、意味・用法について、ちょっと考えてみます。


まず前者ですが、自分は「1Rの内の採点は、可能な限り差をつけて採点する、つまり10−10はつけないことが推奨されるシステム」という意味で使ってきました。この意味で、大体は通じていると思いますが、どうやら、これは和製英語であると。


「10ポイントマストシステム」というのが、ボクシングの採点方法を指す正しい表現であることは、いくつかの信頼性がおけるサイトでも、そういう表現を見かけたので、多分そうだろうなあとは思っていたのです。が、どうもしっくり来ず。ちょっと違うよなあという点があって。


ご指摘してくれた方も言っていたのですが、実はこれ、あくまで、ボクシングの採点システム全体のことを言っている言葉であり、決して「1Rの内の採点は、可能な限り差をつけて採点する、つまり10−10はつけないシステム」という限定された意味ではないんですね。だから、いくら調べても、しっくり来ないんだと思い当たりました。


「10ポイントマストシステム」の「マスト(〜ならねばならない)」は、確かに「(少なくとも)どちらか一方が10ポイントにならねばならない」を意味しているのですが、それは「9−9」とか「9−8」になる場合であれば、それぞれ「10−10」、「10−9」とつけることが「マスト(〜ならねばならない)」であって、「差をつけること」がマストなのではないと。


ここ、ちょっと判りにくいですかね?


例えば、1回ダウンを奪えば、通常「10−8」と2点差がつきます。が、ダウンを奪われた側が、そのダウン以外は、圧倒的に押していて、1ポイントは挽回したと。そういう場合、10点満点からの減点法で考えたら、「9−8」となるわけです。が、その場合は「10−9」とつけましょうねということです(*1)。


では「1Rの内の採点は、可能な限り差をつけて採点する、つまり10−10はつけないことが推奨されるシステム」という意味をシンプルに表す英語表現はというと、どうもこれが見当たらない。実はこれ、「10ポイントマストシステム」を運用する上での、単なる但し書きでしかないのです。


「10ポイントマストシステム」自体は、実際はかなり昔から施行されていた採点システムです。自分が物心ついた頃から、ボクシングはずっとこの採点法でした。反則減点がない限り、少なくともどちらかが一方(両者であってもいい)は、必ず10点となるシステムです。つまり、多くのキックの団体や、総合の団体でも、採用しているシステムです(5ポイントマストである場合もあります)。


が、キックや総合では「可能な限り差をつけて採点する、つまり10−10はつけない」という運用はなされていない(*2)。そして、ボクシングにおいても、この「両者に差をつける」という運用自体は、それほど古いものではない。比較的近年の傾向(ここ20年くらい)なわけです。


では、ボクシングは、何故そういう傾向となり、キックや総合はそうならないのかという問題が出てくるんですが、この話は、まだ、ちょっと先になるんですが「競技化」において必要な「数量化・抽象化」という項目で考える予定です。


今回の結論として、では「可能な限り差をつけて採点する、つまり10−10はつけない」ことは、何と言ったらいいのか。やはり「ラウンドマスト」という表現が1番適切なような気はしています。この、実は運用に際する但し書きでしかないことが、今回の亀田の件では大きな問題となっているわけで、であるならば、この運用自体を表現する言葉が必要なんじゃないかと。


が、やっぱ和製英語を使うのは、カッコ悪いよね。よね(笑)。


なので、次に、この言葉を使うまでに、もっといい表現がないか、ちょっと探してみようかと思っています。


というわけで、次にこそ「競技とは何か」について。

*1:この後、K-1が、10ポイントマストシステムという世界的な通例を破壊して、9-8や9-9を許すようなマストでないシステムを採用したことは、誰も覚えていないと思う故に付記しておきたい。では、何故世界的な通例においては、10ポイントがマストでなければならないのかという事を考えると、これは中々面白い問題で、明快な答えが中々見出せない。確かに9-8でもいいのではないか。その方が確かに分かり易いのではないか。この事は、実はこの連載をした時からずっと考えていて、それなりの答えを自分の中に見出すに至ったので簡単に(なので分かり難いとは思うが)記しておく。

この理由としては、10ポイントマストが「減点法」というスコアリング・メソッドの普遍性を尊重するからだと考える。例えば、4Rマッチで10ポイントマストで40-39の試合があったとする。ところが、その10-9とつけられたラウンドは、K-1方式であれば、9-8となるようなラウンドであったとする。つまり、K-1方式であれば、ポイントは39-38、結果として、勝者の方も1ポイントを失ったスコアが残る。

別の試合で39-38の試合があったとする。勝者は1Rを失い、敗者は2Rを失った結果だとする。この時、先ほどの39-38とこの39-38は、同じ記録として残されていいのだろうか。実際のところ、先の例における39-38の勝者は実は1Rもラウンドを失ってはいないのだ。こう考えた時に、マストの意味が見えてくる。9-8は10-9とつけられてこそ、このラウンドでポイントを失ってないことが、残る合計スコアのみを見るだけで浮かび上がることになる。

先の例、10ポイントマストであれば40-39、K-1方式であれば39-38になる試合の勝者が1Rも失ってないことが記録される事、加えて、後の例、39-38の試合との違いが合計スコアに残ることこそが、減点法の精神の遵守なのではないか。勿論、このようにしてかなり無理な論考を行わないと理由付けできない程度の精神ではある。大した話ではないともいえる。より的確な説明・理由付けをご存知な方がいれば、ご教示頂ければ幸いだ。

*2:繰り返すがUFCにおいては、ボクシング的なこの採点法が採用されている。