電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

アマ・ボクシングを例にして考える

前回は、ブラジリアン柔術を例に取ったが、今回はボクシングを例に取り、数量化・抽象化の話となる。ボクシングと言っても、プロボクシングではなく、アマ・ボクシングだ。このふたつを挙げているのは、それぞれ組技系と打撃系の典型例で、説明がしやすいからという理由がすべてだ。

過度に数量化・抽象化を推し進めると、その競技が元々持っていた本質的な概念が失われてしまうという話。

「ジャッジを考える9」 2006.08.26


いやあ、週末仕事する時間がなくて、ちょっとアップアップのメモ8オジさんです。というわけで、先に続けておきましょうか。


1)判定なし(ドローとなる)
2)全体での判定
3)ラウンド毎のポイント制
4)ある有効な状態にポイントが与えられるポイント制


前回で、4)のポイント制が、競技化の最も進んだ形であることの、サワリを書きました。


では、何故、ボクシングや総合格闘技はそうしないのかという話に入ります(*1)。


強引に結論から書けば、4)の形態を取ることで、その競技の元々の本質的な概念が失われるからです。


抽象的過ぎて、判りにくい表現ですね。では、これならどうでしょう。4)の形態を取ると、点取りゲーム化が始まるからです。


本来、ゴールである1本を取ることが目的なのが、柔術です。が、1本を取る為に、1本を取る過程のある状態を抽出し、そこにポイントを与えるようにしたことで、1本ではなく、ポイントを取ることが目的となってくるのです。


これは、アマボクシングの例を考えてみると、もう少し判りやすくなると思います。


アマボクシングのジャッジ方法は、オリンピックで見られる、電光掲示板にポイントが加算されているアレです(を見たことある人が、かなり少ないような気もして、かなり不安ですが)。これは、5人のジャッジのうち、3人が1秒以内にボタンを押せば、それが1ポイントとして加算され、試合全体でポイントが多い方が勝ちとなります。


が、この採点法、すべてのアマチュアで行われているわけではなく、電光掲示板形式以前の方法である、「得点打」を加算しラウンド毎に判定する、昔からのポイント制があるんですが、これちょっと複雑すぎて、自分には説明できません(苦笑)。これはやる側からも「判りにくい」と言われているようで、近年のシンプルなポイント制が推奨されているようですが、そうすると今度は、機材の問題やら、それに慣れているジャッジがどれだけ揃えられるかとか、色々事情があるようで、小さな大会では採用されていないようです(*2)。


という問題は、ちょっとおいておきます。


何が言いたいかと言えば、要は、アマボクシグの採点法の場合、適切なフォームで、適切な箇所(拳のうち、ナックルの部分)が、相手の身体のある部分に当たれば、相手のダメージの如何に関わらず、1点となります。


一応、KO勝ちという決着は存在しますし、ダウンも取りますから(スタンディングダウンはやたら早く取りますし、3回ダウンでRSC(*3)で終了となりますが、ダウン自体にはポイントは与えられません)、一発狙いをしたっていいんです。が、大概の選手はそうしない。ヘッドギアもしてますから、プロに比較したらダウンは狙い難い。勝つ為には、確実にポイントを取ることを優先する選手が、圧倒的多数になります。


ボクシングとは、素手ゴロ1番、己の拳ひとつで誇りをかけて殴り合い、どちらかが倒れるまで続けるのが、本来の姿だ(*4)。


かなり強引なイメージですが、ボクシングとは、出発点はそういうモノであった筈です。が、アマチュアボクシングの判定方法を取ると、そうではなくなります。KOを狙うことよりも、確実にポイントを取ることの法が勝利への近道なのですから。つまり、競技化を推し進めると、ボクシングの本質から離れていくということです。


そんなことないだろ、軽いパンチと重いパンチで、ポイントに差をつけて、本質から外れないようにすればいいだろという意見が出ることは、簡単に想像できます。


が、これは具体的にイメージにしてみてください。仮に、軽いパンチに1点、重いパンチに2点としてみたらどうでしょうか。答えは簡単です。曖昧な状態に戻ってしまうのです。せっかく、特定の場所に当たれば、1パンチ1点と、数量化・抽象化したのに「パンチが与えた効果」というファクターをそこに入れてしまうことで、ジャッジすること自体が難しくなりますし、主観を排除する為に数量化したのに、逆に主観が排除出来なくなってしまいます。つまり「効果」という曖昧なファクターは、数量化・抽象化においては、邪魔でしかないのです。


だから、思いきって切り捨てる。それが、アマチュアボクシングの採点方法です。打撃系の競技は、数量化・抽象化が難しいんですね(*4)。


では、次回は、今回の話を、柔術グラップリング、そして総合の話に戻しながら、引き続き、数量化・抽象化の話を考えていきたいと思います。

*1:ここではボクシングと表記しているが、勿論、キックボクシングや空手の打撃系全般を含んでいる。

*2:この初稿当時より、さらに機械採点(?)方式が増えているらしいが、ネットで調べる限りでは確証が得られない。機材が値段的に高く扱えるジャッジも不足しているんだろうと予想はするが、詳しい方のご教示を待ちたいところだ。

*3:RSC、レフェリー・ストップ・コンテスト、つまりレフェリーがコンテスト(試合)をストップすること。

*4:近代スポーツ競技において、ボクシングはプロ興行がアマの成立に先行した数少ない例だ。そのことが何を意味するかといえば、スポーツ観戦など興味はない層でも、サッカーとラクビーの大まかな違いが知られている程度には、このボクシングの本質的な概念は知られている。つまり、拳だけを使って殴りあうという基本がだ。これは競技化するにあたっても、圧倒的なアドバンテージであるといえる。本稿とは趣旨がまったく逆になるが、ルールを多少いじろうが、その本質的な概念が失われにくいともいえる。

*5:上記であげた「軽いパンチに1点、重いパンチに2点」に限らず、具体的にアマボクシングの採点方法をイメージすると、いかに打撃攻撃をポイント換算するのが難しいかは、理解出来ると思う。これがキックボクシングであったら、キックとパンチでどう配点すべきかという問題まで加わり、相当思い切った抽象化を行わない限り、アマボクシングのような採点方法は出来ない。ちなみに、上述しようとしてメゲた、昔からの得点打方式の採点は、プロの10ポイントマストに有効打に対するポイント制を取り入れ、過度に変形させたジャッジ方法だ。