電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

黒澤明全30作・極私的見所解説その3

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今週(三週目)のテーマは「社会を斬る」。おれ的にはかなり粒揃いの「悪い奴ほどよく眠る」「野良犬」「醜聞(スキャンダル)」「生きものの記録」の4本。特に「生きものの記録」はマイ・フェイバリット。

「悪い奴ほどよく眠る」

公開当時、黒澤が商業性より批評性と強調したらしいんだが、そんなに大したことはない。政治ドラマなんだが普通に活劇してる。かと言って多少の冗長さも出始めていて「天国と地獄」と同じ特徴を持つ1本。なので、政治に対する批評性とかそういうツマンない事は云々せず、素直に活劇として楽しんだ方がいいと思うな。そういう鑑賞に充分耐えうる出来だし、そもそも黒澤は、政治への批評性なんて映画を面白くする為のツマとしか考えてなかった(筈)。

「野良犬」

小気味いいという表現がぴったりの、黒澤充実期の傑作刑事ドラマ。やっぱりこういうのが黒澤らしいという事だと思うの。三船が好きじゃない自分でもこれと「酔いどれ天使」の三船は心底カッコいいと思う。超イケメンなの。今のテレビドラマ、特にアクション物の基本的構造は、大体この辺りの活劇が元になっている。いや黒澤が最初だとかオンリーだとかではないんだと思う。が、圧倒的なクオリティで何作もやったからこそ、黒澤のみの名前が挙がるという。

「醜聞(スキャンダル)」

これとか「静かなる決闘」とか、1950年前後の傑作群に埋没しあまり語られることがないんだが、実に面白いんだよねえ。要はパパラッチの話なんで、その辺で「社会を斬る」なんだろうけど、これまたどうでもいい。しかし、三船ってホント大根なんだ。この辺りの現代劇ではそれが際立っていて、色々な意味で見所のひとつ。勿論、大根は必ずしも悪いわけではない。ジェームス・スチュワートもクラーク・ゲーブルも大根だ。ホントに凄いスターは概ね大根なんである。その意味でこの映画の三船の大根ぶり、特にラスト周辺なんて、もう笑うシーンじゃないのにニヤニヤしちゃう。大根であるからこそ味があるというか。そういう三船を確認出来るという意味でも貴重な一本。

「生きものの記録」

黒澤で一本選べと言われたら、おれはこれを選ぶ。大作「七人の侍」の翌年の作。第五福竜丸被爆事件を受けて、反核という意味では、ファースト「ゴジラ」と対になっているという説もある。つまり、今見て極めて意味ある一本。今的な言い方をすれば、いわゆる放射脳を描いているとも言えて、何より黒澤は人の狂気を描くのが大好きで、それが映画としての説得力に一番昇華されてるのがこれだと思う。ラストシーンがしみじみ怖い。が、ここが黒澤の分水嶺とも言えるのだ。この映画の後の黒澤はいわゆる大家として自分を過剰に意識し過ぎ、ここまでの小気味の良さを失っていく。この後の数少ない例外は「用心棒」と「椿三十郎」、それに「八月の狂詩曲」くらいで、この意味でも黒澤を通して語るに当たっては重要な一本。

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