電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

エヴァン・タナーとブローティガン

エヴァン・タナーが死んだ。

パンクラスのネオブラッド・トーナメントで優勝していることで、日本にも馴染みのある総合格闘家だ。自分も生で見てる。

リチャード・ブローティガンを思い出した。

今でこそ、2ちゃんでマトモな会話など、まず成立しないのだけど、自分が2ちゃんを始めた頃は、結構面白いやり取りが出来ていた。格闘技板なのに、延々と海外文学の話とかしていたり。好きな作家はという問いかけに、海外だったら、ヴォネガットサリンジャーブローティガンあたりと答えて、センスがいいと褒められたことがある。まだ、2ちゃんで真っ当なコミュニケーションが可能だった時代。

ヒッピー・ムーブメントというか、フラワー・ムーブメントというか、文学的な括りで言えば、ビート・ジェネレーションというか、60年代末期から70年代の初頭に、アメリカの西海岸を代表する作家としてブレイクしたブローティガンは、日本でも人気があったということになっているが、自分が思春期の頃には、文庫なんか出てなかったし(つまり高い単行本で買わないといけないから、高校生くらいだと、なかなか手が出ないわけだ)、あの時代(と、ここではお茶を濁すことにする、説明し始めると、やたら長くなってしまうので)に、10年、間に合わなかった自分の世代で、ブローティガンなんて読んでいる奴は、既に、ほとんどいなかった。

時代の寵児的な扱いだったらしい本国アメリカでも、あっという間に人気を失った彼は、1984年に、猟銃で自殺している。作家や音楽家の人生は、死に方を含めて、ひとつの作品であって、その意味で、自殺など別に珍しくも何ともないが、ブローティガンの場合は、一貫して、人間の弱さについて書き続けた作家であって、人気を失い落ちぶれた挙句の自殺という、まさに弱さを象徴するような死に方は、ブローティガンという作品の完結に相応しいと言える。

詩と小説の中間のような(日本でいえば、初期の高橋源一郎のような)、小説を読み慣れていない者には、恐らく理解し難い作品が多い。だから、一番、普通の小説に近いというか、読み易い作品(だという印象が残っているが、もう15年くらい読み直してないので、間違っているかもしれない)である、遺作の「ハンバーガー殺人事件」を紹介しようと思ったら、とっくに絶版になってて、古本で1万円近くする。びっくり。

なので、新刊が文庫で買える、処女作であり、代表作とされる「アメリカの鱒釣り」も、オマケでつけておく。タイトルからしてカッコいいよね。まさに、イッツ・ソー・クール。徹底的に人間の弱さを描いているのに。

エヴァン・タナーも、ブローティガンを読んでいたら、死なないで済んだかもしれない。強くなるということは、弱さを認めることなんだ。