電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

煙草と微笑

JRの四ッ谷駅から麹町方面に向う。最近は、禁煙という表示なくとも、駅の周辺(ヘタしたら区内全域)が禁煙だ。そう知っていて、上智大学を超えたあたりで、煙草に火をつけた。その日は休日だったので、人通りはほとんどない。

数メートル前を歩いていた、おそらく私より一回りまでは上ではないだろう年配の男性が、自分のジッポのライターの音に振り返った。

すかさず「ここ禁煙ですよ」。

「ああそうですか」と答えて、のんびりと、携帯灰皿を取り出し、のんびりと、まだふた口くらいしか吸ってない煙草を放り込んだ。次にその男性が振り返った時、私は、まだ、もぞもぞ携帯灰皿をいじっていたが、自分が煙草を消したことを確認したにも関らず、その男性は、その後も、何回か、神経質そうに振り返った。

そうこうするうちに、自分を追い越す勢いで後ろから歩いてきた男性がいて、この人も年の頃は自分に注意した男性と同じくらい、ところが、やっぱり、煙草に火をつけた。

どうなるかなと思った。注意をした男性も、自分の隣で煙草に火をつけた男性も、スーツにコート、会社勤めらしい、しっかりしたカッコをしている。自分はジーンズにスニーカー、シャツは裾を出し、ヨレヨレのカジュアルなコートを羽織っている。おまけにヒゲ眼鏡だ。数メートル離れてしまえば、20代に見られてもおかしくない。自分が若く見えるということを言いたいわけではない、そういう若作りをしている結果、数メートル離れてしまえば、若いと誤認されるカッコをしていたということだ。しかし、今度の煙草親父は、明らかに、注意親父と同年配。

早く振り返らないかなと、少しワクワクした。しばらくして、やっと、振り返った。そして「ここ禁煙ですよ」。既に、私を追い越して数メートル先を歩いていた煙草親父は、「えっそうなんですか」と、自分と同じ反応を、が、少し大袈裟にしてみせた。

うむ、注意するならいいだろうと思った。一貫しているもの。それからも、注意親父は、何回か振り返り、その度に私を監視するように睨め付け、何回かそれを繰返した後、ぱたりと振り返らなくなった。

麹町の交差点まで、注意親父の後ろを歩く派目になった。しかも、その交差点を、永田町方面に右折するところまで一緒だった。なんだかイヤだなあ。後をつけているみたいじゃないか。そう思った。距離は随分と離れ、2・30メートルはあった。

交差点を右折し、数十メートル歩いたあたりで、注意親父は、突如、横断歩道もないところを反対側に渡っていった。

「ちょっと! そこ横断歩道じゃないですよ!」

とは、言わなかった。心の中で、そう呟いただけだ。そうして、注意しなかった自分に、少し微笑んだ。