電脳如是我聞の逆襲

他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ

競技性と興行性は多くの場合矛盾する

連載再掲に戻る。そろそろ、誤解する人が出てきそうなので、もう一度強調しておくけれど、これあくまで2006年に書いたモノの再掲なので、そこは誤解なきよう。

今回の連載経緯は第1回の「興行屋よ、競技の旗を低く上げよ」を。

上記第1回からの繰り返しとなるが、取り上げている格闘技団体も、その当時の状況で書いているから、本来ならば、現状に即して書き直すべきだと思うし、その労を面倒臭がっている自分の怠惰に対しての叱責であるならば、それはまったく正当であることを申し添えておく。かと言って、格闘技団体の具体例以外の内容は、まったく古びていないどころか、格闘技における競技化という問題について、ここまで深い論考をしている文章は、紙メディアを含めて、他に見たことはなく、当時どころか、未だに画期的だと自画自賛したくなることも、また確かだ。

「ジャッジを考える5」 2006.08.15


というわけで、続きです。


ジャッジの方法・形態は、下記のように分類出来ます。


1)判定なし(ドローとなる)
2)全体での判定
3)ラウンド毎のポイント制
4)ある有効な状態にポイントが与えられるポイント制


そして、競技化とは、1)の状態から、4)の状態へ進むことだと。


競技の前提となる条件も繰り返しておきます。


イ)統一のルールが存在すること。
ロ)競技者が公平な条件のもとに争うこと。
ハ)そのルールの施行と公平性が保証されること。


それでは、1)から4)にいくほど、競技性が高くなる、競技化が進むというのは、どういうことでしょうか。


まず1)について考えてみましょうか。簡単に言ってしまえば、この形式だと、勝負が、なかなか決着しません。なので、例えばトーナメントをやる場合だったら、この形式以外に、結局何らかの判定の形式を導入しなくてならない。だから、そのままだったら、アマ化が出来ないんですね(*1)。そこが、競技化との流れとは根本的に矛盾します。


プロ興行として、1本もしくはKOを勝ちを狙って欲しいという意図を明確に説明しているZST以外に、この形式を採用しているのは、自分の知る限りでは、パンクラスゲートですが(色々な言い方はありますが、いわゆるフューチャーファイトですね)、これは、プロ昇格査定マッチであり、逆に言えば、1本で勝ちきることが、プロ昇格へのテストとなっているわけです。つまり、このルールを採用しているところには、明確に採用する意図があります。が、競技化とは、相反する方向性となってます。


2)と3)は、実際に採用しているプロモーションを見ると、面白いことに気付きます。老舗の修斗パンクラスが採用しているのは、競技化が進んでいる3)なのに、それより新しいプロモーションは、2)を選択しているということ。つまり、自分の論旨に従えば、現状の国内の総合格闘技界は、競技化を指向しない方向に進んでいるという。そうなんです、実はその通りなんです。


つまり、興行性の重視です。


自分は、スマックガールは今回の亀田判定のような問題を起き難くする為に、2)を採用していると書きました。濃いマニアでない一般の方々が「勝ったように見える」と、実際に出る判定の齟齬を、可能な限りなくす為にそうしていると。


が、そのことは、実は競技性の軽視に繋がっているんです。というのは、2)は、3)に比較し「曖昧」だからです。「透明性」に欠けるとも言えます。曖昧であったり、不透明であったりしたら、競技の大前提である「公平性」が保証され難くなるわけですね。だから、2)は3)に比較して、競技性は明らかに劣るのです。


試合全体で、えいやっで判定する2)は、例えルールブックに判定の基準をどんなに詳細に記していても(実際には、記してない場合が多いと思いますが)、曖昧で不透明であるからこそ、一般人から見たら「何かよくわからないけど、あっちの勝ち」に限りなく近くなります。一般人から見た「勝ったように見える方が勝つ」に近づくことになるんです。


一方、3)を採用する団体、例えば修斗は「修斗は団体ではなく競技である」を旗印に、競技化を進めてきたからこそ、先達であるボクシングやキックを参考にして、3)を採用していると思われますし、パンクラスも、UWFというプロレス団体から出発して「完全実力主義」への流れの中で、あえて競技性が高いことを強調する必要があったからこそ、3)を採用していると思われます。


日本国内では、総合格闘技は、歴史的に、いわゆるプロレス(とあえて曖昧な表現にしますが)と未分化な状態からスタートしました。そういう草創期にスタートしたこの2つは、それゆえに、競技性が高いことを、ハッキリとさせる必要があったというということです。


続きます。

*1:ここは多少説明不足だったかもしれない。アマで多く開催される1Dayトーナメントを考えてみて欲しい。総合や打撃系のアマチュア化で必要なのは、何と言っても、一日に複数試合をする事を可能にするルールと用具だと思う。勿論、トーナメントを開催するからと言って、何も1Dayに拘る必要がないのも確かなんだが、遠方からの参加者の負担を考えた場合、やはり1Dayトーナメント(もしくは連日開催)の存在はアマチュアにおいて必須だと考える。しかし結果として、プロとあまりにかけ離れたルールや環境を設定すると、プロ昇格試合としては問題が発生することがあって、バランス設定こそが肝要となるわけだが。